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多様な人たちが輝くためのパターン・ランゲージ
⑨「No.7 大丈夫の確認」

2021.09.07

know-how

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今回のキラパタ解説は「No. 7 大丈夫の確認」です。
一緒にはたらくパターン の C)スムーズな立ち上がり というグループの最後のパターンをご紹介します。

僕がOJT支援をしている現場ではこの決まり文句を良く使ってくれています。
上司からの「大丈夫の確認をしましょう」
障がいのある方からの「大丈夫の確認をさせてください」
なんて具合です。では順を追って解説します。

前回に引き続き、新しく入社した障がいのあるAさんを通じて、どんなパターンなのかを見ていきましょう。

スムーズな立ち上がりを目指している段階、つまり入社間もない頃のAさんのような方には共通して「強い緊張や不安があり、自分は大丈夫なのだろうか、通用するのだろうかと考えている」という特徴があると「No.5 ウェルカムサイン」以降繰り返し説明してきました。

そのため「ウェルカムサイン」で強い緊張や不安を緩和し、「仕事の誇り」でAさんが大切なお仕事を任せる仲間であることを理解してもらいました。ここまでは仕事をスタートするまでのパターンです。「大丈夫の確認」は、Aさんに初めてお仕事をしてもらった際の、上司や同僚のリアクションのあり方に関するパターンです。

初めてお仕事をした際にAさんの頭を占めるものは「何か問題があるのではないか」「迷惑を掛けたのではないか」「自分は通用していないのではないか」です。皆さんが考える何倍ものレベルの不安がAさんの心に負担を掛けています。

しかし、多くの場合「何かわからないことがあったらいつでも聞いて」という言葉でAさんを放任しがちです。わからなかったらAさんが自分で聞いてくるはずと考えるからですね。しかし、Aさんは既に迷惑を掛けているのではという不安に陥っていますから、(さらに先輩の手を煩わせてはいけない・・・)という思考に入り込むことが多いのです。大丈夫の確認は、上司や同僚のリアクションのあり方であることを再認識しましょう。

では、どのようにリアクションするかですが、不安状態のAさんにダメ出しをするというのは、間違いなくご法度です。実際にAさんの仕事にミスや間違いがあってもここはグッと我慢してダメ出しはしません。対話の技術に「誰でも2%はいいところがある」というものの捉え方があるのですが、多様な方とのコミュニケーションではこの視点を基本に置くと良いでしょう。上手くできていなく、スピードが遅かったとしても、0%のデキではないはずです。そこで次のような声掛けを行います。

「OK!大丈夫ですよ。最初でここまでできれば上出来ですから安心してください。初めてやってみた感想はどうですか?」

最初は結果に焦点を当てずに、トライしたことにOKを出すと良いです。その上で、もっとこうすると良いというアドバイスをします。
「この部分だけど、私の説明ではどうすると言っていたか覚えていますか?先ほどはここが上手くできていなかったかも知れませんね。次はこの点に注意してやってみると良いですよ」という具合です。

Aさんの不安の強さも、自信の無さも、自分のペースで何度かトライする環境をつくると和らいでいきます。そうすると「大丈夫、できた」という心の状態にたどり着きます。彼らは能力が無いのではなく、強すぎる不安や緊張や焦りがあるだけなのです。大丈夫の確認は、上司や同僚が仕事の出来を放置せずに、初期段階で積極的にこれらのマイナス心理を和らげることで、彼らの本来の能力が早期に発揮されやすい環境を整備する関わり方です。

因みに大丈夫の確認がなされないままの関係が続くと、Aさんの元より低かった自己受容感や自己有用感がますます低下します。
「自分はダメだ」
「迷惑ばかりかけている」
「いないほうが良いのではないか」
モチベーションはがた落ちし、仕事での成果は出にくいでしょう。さらにこの状態のAさんと関わることは上司や同僚にとっても心理的な負担が大きくなります。
「Aさんっていつも後ろ向きな考え方しかしないよね」
「仕事は遅いし、いつまでたってもミスが多いなぁ」
このような相互関係に陥らないために、大丈夫の確認を徹底することが大切です。

「それは分かったけれど、いつまでやれば良いのか」という疑問が沸きますね。その答えはAさんが自分自身で「私、大丈夫です」と思えるまでです。必要回数は人それぞれですが、早ければ数回、遅くても十数回でたどり着けると思います。

僕がお勧めする大丈夫の確認をするタイミングは
 ・初めての仕事では、開始15分後に実施
 ・最初の1週間は1,2時間おきに実施
 ・最初の1週間は一日の終わりに面談時間を設ける
 ・1か月経ったタイミングで、ゆっくり話ができる一か月面談を設ける

最初はお互いに要領が分からず、1回の大丈夫の確認に5分程度の時間が掛かるかも知れませんが、慣れると数秒の確認でそれぞれの仕事に戻れるようになります。大丈夫の確認は1回の質以上に頻度が大切です。指揮命令者一人で支援が難しい場合は、職場サポーターが時折声を掛けるという役割を負っても良いでしょう。大切なのはAさんが「これで大丈夫なのだろうか・・・」という不安な時間をできるだけ短くし、「これで大丈夫!」と自信を持てる状況を作り出すことです。その後に結果はついてきます。

最後にもう一つ、知恵を授けます。
これは、周囲で見ていたら問題ないように思えても、本人が納得できていないときのコミュニケーションの取り方です。
上司や同僚ができていると思っていると「大丈夫?」と聞きがちです。大丈夫と聞かれて「いえ、大丈夫ではないです」と答えるのはなかなか勇気がいります。そこでそのようなときは次のように聞いてみてください。1日の終わりの面談や、1か月面談などもこの質問の仕方が有効です。
「今の業務で、うまくできたところと、もう少し頑張りたいところを教えて下さい」
「今の業務で、自分で工夫したところと、難しかったところを教えて下さい」

前半部分は良い所を確認する質問ですね。自分の良いところを言えるようになることは、自己受容や有用感にも影響しますので、発言機会を与えるのは良策です。
後半部分は課題意識を確認する質問です。周囲では気づけない本人の中の意識を見ることができます。なるほどと思える課題意識を話してくれることもあれば、そんなこと気にしなくて良いというものもあるでしょう。いずれにしても成長しようという課題意識があることにOKを出し、本人がそれをどうしたいかを聞くと良いでしょう。本人が求める時以外のアドバイスは不要です。Aさんが何を考えているのかを知っておくだけで十分です。

如何でしたでしょうか、では今回のおさらいです。
・初めてお仕事をしてみた障がい者の頭を占めるものは「何か問題があるのではない
 か」「迷惑を掛けたのではないか」「自分は通用していないのではないか」という
 強い不安。
・その状況下では「何かわからないことがあったらいつでも聞いて」は有効ではない。
・初期段階で積極的にこれらのマイナス心理を和らげることで、彼らの本来の能力が
 早期に発揮されやすい環境を整備する。
・本人の「これで大丈夫!」と自信を持てる状況を作った後に結果はついてくる。

今回は以上です。
次回は「No.8 困ったら共有」です。これまた僕がもっとも実戦で使うパターンです。
お楽しみに。

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