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セルフケア支援マスターへの道【初級編】2日目
をサビ管協会で実施しました

2021.10.27

report

初日から1週間を置いて、2日目の研修を実施しました。
前回は聞き忘れたのでご参加者の写真を掲載できませんでしたが、今回は皆さんからOKを頂いたので、研修風景をお見せします。

この1週間でご参加者全員が、セルフケアシートを使ったセルフケアトレーニングを、ご利用者1~3名と1週間実践してきてくれました。その上で、今日解決したいと思ったことを最初に集めると、次の6つが出てきました。

 ①セルフケアを朝実施することで発生した問題がある
 ②質問時の回答をうなずきでしか回答できない方の対応
 ③記入内容と客観イメージに差がある
 ④報告の内容がいつも同じ
 ⑤信頼という言葉を理解してもらうのが難しい
 ⑥プライベート情報だから支援者にも見せたくないと言う

今回のセミナーでははこれらのリアルな現場での問題を一つひとつ皆で紐解きながら、学びを深めました。以下で一部を具体的に解説してみます。

①セルフケアを朝実施することで発生した問題がある
この問題を詳細にお伺いすると、気がかりなことがある際に目の前のことに集中できなくなるご利用者のお話しでした。作業中でも「朝に報告した内容が正確ではなかった」だとか「もっとこう言えば良かった」など考えてしまい、やるべきことが疎かになってしまっているようです。多くのご支援者が出会うケースの一つですね。
これに対してご支援者は「朝にセルフケアをしないで、夕方にすると良いかも」と考えたそうですが、これは本質的な対応ではないかもしれませんね。

そこで、まずは、問題解決の基本としてこのブログではお馴染みの 1)本人の努力、2)周囲のサポート、3)環境の工夫 の3つを組み合わせることを説明しました。

「朝しないで、夕方に時間を変更」は3)の環境の工夫ですね。これも策として残しておきながらも、まずは1)本人の努力 をしっかり考えることから始めましょう。今回のことで本人が努力すると良いことは、「作業中は作業に集中する」ことですね。この方はセルフケア以外でも、また朝以外の時間もきっと「モヤモヤすると過去のことを考えてしまう」クセがあると思われます。このご利用者がゆっくりでもクリアすると良いのは、このクセに気付き、改善する習慣を身に付けることでしょう。

最初の一歩は、本人がそう思えるかです。これをありたい姿を描くと言います。現状を理解しないとありたい姿はイメージできません。ですから、まずは「私は朝の状態報告のことを気にして、作業に集中できていない」という状態にあることに気づいてもらいます。
次に、そんな自分をどうしたいかを考えてもらいます。「そのままでいい」と思っていれば、変わることは難しいでしょう。ただ「今のままじゃ良くない」「作業中は作業に集中したい」と思えば、周囲がお手伝いをすることができます。ここまではお膳立てです。

次は「作業中は作業に集中する」というありたい姿を目指すために1)本人の努力 と 2)周囲のサポート は何ができるかをご利用者と一緒に考えます。
正解はありません。ご利用者とご支援者ができることを考えれば良いのです。

僕が支援してきた例からご紹介してみます。本人の努力と周囲のサポートがかみ合っていることにご注目下さい。

1)本人の努力
 ・作業に入る前に「今日は作業に集中します」と支援者に言うことで自己暗示
 ・朝の状態報告のことを考えてしまった際には報告をする、作業開始からどのくらい
  の時間経過しているかを一緒にチェック、少しずつその時間を延ばすことを目指す
 ・朝の状態報告のことを考えてしまった際には自分にダメ出しをせず「だいじょうぶ
  大丈夫」と自分に声を掛ける

2)周囲のサポート
 ・本人が作業に集中したいと思っていることを知っておき、応援する
 ・朝の状態報告のことを考えてしまったと報告があった際は「教えてくれてありが
  とう」という気持ちで聞く
 ・報告があった際には、作業開始からの経過時間を共有して「今日は10分作業に集
  中できたね」とフィードバックする。これが徐々に15分、20分、最後は時間中
  に来なくなったというように徐々に成長を促す

このテーマに関しては以上です。始めたばかりの今の段階では3)環境の工夫 より、1)本人の努力、2)周囲のサポート を主力に置いた支援が望ましいかもしれませんね。


もう一つ解説してみましょうか。

③記入内容と客観イメージに差がある
今回のケースをもう少し聞いてみると、周囲の方の言動にイライラしがちなご利用者が、報告に来た際は明らかにイライラしているのに、報告内容には全くそれが反映されていないそうです。ご支援者は「え?」と思ってしまいますよね、よくわかります。

まず知っておきたいのは、意外に自分のことは理解しにくい、ということです。この方の場合、自分でイライラしていることに気付いていないかも知れません。ですので僕なら良い悪いという概念は横に置いて、イライラしているように見えることを相手に伝えます。報告のあとのStep2「一つ質問する」を利用すると良いでしょう。

「〇さん、報告ありがとう。報告には無かったことでひとつ気になったことがあるんだけど、言ってみてもいいかな。少しイライラしているように見えるね。何かあった?」
そうすると理由を教えてくれることもあるでしょう。今回の方の場合、他の方で電気をパチパチ切り替える方がいるそうで、それを目の当たりにするとイライラが強くなるそうです。まっとうな理由ですね(笑)

そこで、情報を整理してフィードバックします。「そっか、〇さんは電気をパチパチされると、イライラするんだね」という感じですね。この事実に良いも悪いもありません。ここからが支援の見せどころです。ここからは会話形式で。

支援者「イライラをどうしたい?」
 〇さん「イライラしたくてしてるんじゃない」
支援者「そうだよね、イライラしたいわけじゃないよね」
 〇さん「うん」
支援者「どうしたらイライラがなくなりそうかな」
 〇さん「Aが電気をパチパチするのをやめればいいんだよ」
支援者「そうだね、Aさんがやめてくれたら、〇さんもイライラしなくていいもんね。
    Aさんがパチパチしないために、何かできそうなことあるかな」
 〇さん「やめろって強く言う」
支援者「なるほど、○さんいつも大きな声で言ってくれてるよね。支援者も、何度か
    Aさんに話をしたんだけど、Aさんどうしても一日に何度かやりたくなっ
    ちゃうらしいんだ。」
 〇さん「Aはダメな奴だ」
支援者「そっか、○さんはそう感じるのね。もしAさんがダメなんだとしたらどうし
    たらいい?」
 ○さん「わからない、どうしたらいいの?」
支援者「いろいろ調べてみたんだけど、人を変えるのって難しいんだって。他人が
    自分を変えようとしていると感じたら、私もそうだけど反発しちゃんだよね。
    〇さんはどう?」
 ○さん「僕もいやだ」
支援者「でも、自分が思えば変えられるものがあるんだって。何かわかる?」
 〇さん「わからない」
支援者「他人を変えるのは難しいけど、自分で思えば自分は変えられるんだそうだよ」
 〇さん「どういうこと?」
支援者「Aさんが電気をパチパチすると、〇さんがイライラするんだよね。でもAさん
    を変えるのは難しいとすると、変えられるのはどこだろう」
 ○さん「僕がイライラしないってこと?」
支援者「うん、○さんがそれを望めば、Aさんがパチパチはするけど、○さんはその
    時にそこまでイライラしないでいられる状態は作れるかも知れないね」

如何でしょうか。こんなに簡単にいかないかも知れませんが、ここまでくれば ありたい姿 の共有は目前です。ありたい姿が作れれば、電気をパチパチが発生した際に○さんと、イライラ発生の確認をするという習慣支援アクションを起こせます。

そっか、今日はイライラしちゃったか。ということが続きながらも、本人がありたい姿を持ち続けていると「今日はそんなにイライラしなかったよ」と嬉しそうに言ってくるときがありそうです。その時は「○さん、すごい!」と褒めちぎります。やがて、Aさんの電気パチパチに反応せずスルーできるようになるかもしれませんね。

この事例を再度解説すると
 1)困りを共有する
 2)本人のありたい姿を一緒に描く
 3)ありたい姿ができているかどうかを一緒にチェック
 4)少しでもできたら褒める
というステップで解決を目指すというお話でした。事例のお話は以上にしましょう。


セルフケアのチェックや報告は、状態や発生している困りを見える化する仕組みです。そして支援とは困りを解消することです。セルフケアと支援を組み合わせることで困りが小さくなり、できることが増え、生きづらさが減ります。支援マスターを目指す皆さんは、セルフケアを理解しながら、ご利用者の困りを解消できる方になって頂ければ嬉しいです。

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