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第23回 4bunnno3サロン
「雇用・就職した初期段階にやっていること」

2021.11.28

report

就労・定着支援に関わる方が相互に気づきを高め、学びを深める4bunnno3サロン、
第23弾を実施しました。

今回のテーマは「雇用・就職した初期段階にやっていること」です。

実習や面接を経た就職初日。新入社員、受け入れる上司や同僚、そして送り出す支援者も全員が緊張してその日を迎えます。そんな初日~1週間の間にどんな工夫をしているかは、雇用企業や支援者で意外に違いがあるようです。障がい者雇用の一丁目一番地は、就労定着の実現です
人材ビジネス歴の長い僕は、障がいの有無関係なく、最初の1週間でこの雇用・就職がこの先上手くいくかどうかはだいたいわかると思っています。

そこでの今回の4bunnno3サロンでは、雇用・就職初期段階で皆さんがどんな取り組みをし、その中に何を見出しているのかを情報交換しました。

【企業編】
■雇用初期段階にやっているアクション
今回企業側でご参加のお二人は同じ企業に所属していたので、許可を頂き同社での取り組み事例を以下に記載させて頂くことにします。同社は特例子会社で年間数十名の採用を実施していることもあり、最初の5日間は入社研修を実施しているそうです。「特例だからできるんだ」というお声もあると思いますが、就労定着のための初期アクションとして参考になると思います。

初日:祝辞と概要の説明
代表による祝辞と期待していることの話のあと、社内ルールの説明、バディー制度(指揮命令者とは別に相談できる相手を設定している)の紹介など。
>>新入社員の思考行動のベクトル調整に時間をかけていますね。また座学だけではなく配置先にも案内し座席の確認、就業現場での挨拶 など、余裕を持って組織に溶け込めるように配慮しているようです。

2日目:ビジョン・ミッション・バリュー、組織とサービスの説明
親会社の説明、本人に任せる業務がどのように会社に貢献し、顧客に提供されるかの解説など。>>業務における価値観の理解やすり合わせをしています。

3日目:障がいと配慮に関する説明とロープレ
障がいに関する同社の考え方、各自の困り内容の開示と配慮要求ロープレ(現場配属後に実施することに先んじての練習)、同期や研修担当間での相互理解など。
>>本人の障がい受容、同社がオープン性を期待していることを確認しているようです。また、実際に配属先で配慮要求ができるように先回りしてのロープレなどは、極めて有効な策だと感じます。

4日目:ビジネスマナー説明とロープレ
メール、電話、敬語、身だしなみなどの考え方を説明など。
>>配属先負担を減少するための取り組みだと感じます。同時に複数名採用する同社だからこその対応かもしれません

5日目:報連相
ホウレンソウの考え方(自己発信の重要性)など。
>>4日目と同様ですね。

※この間は必ずしも終日集合研修だけではなく、時折配属先にも戻り、現場のメンバーと交流することもあるそうです。

7日目:現場に本格配属
最初にチームメンバー全員で自己紹介会(既存社員も自分の特徴などシートを使って説明・情報開示)を実施して導入スタート。また、前週に実施された研修で担当が気になった点はすべて現場上長にレポート。

以上です。同社は障がいのある方を初めから正社員として迎え入れる代わりに、戦力として社業に貢献することを明確に要求しており、その姿勢は厳格なものだと感じます。しかし最初からいきなり業務に就くのではなく、1週間通勤や環境に慣れてもらい、コミュニケーションを取れる関係を築く期間を設けていることにノウハウを感じます。自動車や機械をいきなりエンジンフル回転で回さず、じっくり暖気運転をしたほうが長持ちすることと同様ですね。


【支援者編】
■就職初期段階にやっているアクション
一方、就労移行などの支援者はどのような取り組みをしているのでしょうか。就労定着に必要なことは入社前6割、入社後4割のイメージというコメントがありました。今回は入社後の話に特化してお伝えします。

・最初の1週間は毎日連絡を取り、状態を確認する
・最初の1週間は焦らないことに力点を置いたアドバイスをする
(最初の1週間で環境に慣れ、1か月で業務の流れを理解し、3か月で会社や業務に慣れる など)
・実際に問題の種を見つけた段階で支援をする(本人と就業先へのサポート)

決まった型ではなく、コンスタントに連絡を取り、取得した情報を元にアプローチするという支援が多いのかも知れません。

■初期段階でチェックしているポイント
どんなことに注視しているかという観点では、企業側も支援者側も近しい情報が出てきましたので、まとめてご紹介します。

・本人が自己開示できているか(大変なことを「大変です」と言えるか)
・焦り過ぎていないか
・スピードより精度を重視する
・教えられた業務を正しく理解できている
・教えたられた業務を正しく実行できるか(自己流でやり始めることがある)
・分からないことは確認したり質問したりできるか
・休憩時の過ごし方
・ランチ時の過ごし方

■こんな人は上手くいく、こんな人はうまくいかない
初期の段階でうまくいく人と、いかない人の見極め方を聞いてみました。

・最初から目標が高すぎる人や熱がこもり過ぎている人はうまくいかない
・地に足が付いている人(地道に続けられる人)は続く
・他人のことを気にしすぎる人は続かない
・他人ではなく自分を変える観点がある人は上手くいく
・気持ちや考えを溜め込み、誰かに伝えられない人は続かない
・人に頼れない人は続かない
・分からないことや言いたいことを素直に言える人は続く
・誰かしら話せる相手が(複数)いると上手くいきやすい
・孤立し、誰とも話せない状況の人は続きにくい

以上です。

ここからは僕のノウハウを公開します。
序文に書いた通り「障がいの有無関係なく、この最初の1週間でこの雇用・就職が上手くいくかどうかはだいたいわかる」と僕は考えています。その中で何を見て考えているかを解説してみます。

【初日】
出社前に少し電話で話し、緊張をほぐし、落ち着いて過ごすことを一緒に確認します。そして終業したらまた本人と電話で話をします。その内容は次の通りです。

①所感の確認:初日は多くの会社では導入研修や受け入れ態勢の整備(契約の確認、PCの初期設定、関係者への挨拶、担当業務の説明)などを行うことが多いのですが、本人の緊張も手伝って慌ただしく終わります。つまり初日の本人所感の源泉は生理反射的な感覚でしかないのです。この日に所感を尋ねると概ね次の3つに分かれます。
 A)青信号:とても良かった
 B)黄信号:アッと言う間で良くわからなかった
 C)赤信号:とても嫌だった
僕が危険だと思う順番は、C>A>B の順番で、過去の経験値でその発生比率は 0>1>9 です。入社前にしっかりとマッチングをしているので赤信号を見た経験はほぼありません。(一度、たばこが苦手な方の隣で副社長がチェーンスモークするという環境だったことがあり、その際は初日に「もう辞めたい」と言われたことがあります。これは僕が社会人1年目の派遣営業をしていた時で、事前にこのような情報を取得できていなかったことが原因です)。次に危険なのは青信号で、これはたまに見ます。「私この会社に入って本当に良かったです」ということを興奮気味に話してくるケースです。これには躁傾向の反応かもと疑います。確かに良いこともあったのかも知れませんが、冷静さを取り戻さないと後日反動で赤信号に変わる可能性を感じます。ですから、初日の正解は黄信号だと考えています。

②小さな問題探し:次にその日の一連の出来事を時系列で思い出しながら話してもらいます。この目的は小さな問題探しです。世の中の支援者も上司も「問題はないほうが良い」という思考を持っていますが、この姿勢は良くないと僕は考えます。問題は起こるのです、そして障がい者雇用においてその確率は大変高い。では何を考えるべきか。それは、できるだけ早期に問題を発見し、その乗り越え方を本人と上司や同僚が学ぶことです。この話の際に消化訓練の例えを良く使います。誰もが火事なんてないほうが良いと考えますよね。でも「家事よ、起きるな」と祈っていても、時には起きるものです。ですから消化訓練をするのです。実際に火事が起きてから慌てないためには安全な環境で小さな火を使って消火器を使う練習をしたほうが良いですよね。

話を戻します。僕は本人の初日の報告の中に小さな問題を探します。良くあるのは「上司から仕事の説明を受けた際に、実は確認したいことがあったが聞くことができなかった」というようなものです。これはとても小さな火です、放っておいても問題ないでしょう。しかしこれを使って消化訓練の練習をします。就業開始したAさんとの会話はこうです。

僕「本当はどうしたかったの?」
 A「そうですね、本当は上司に聞いてみると良かったのだと思います」
僕「なるほどそう考えているんだね。このことで明日やってみたいことはある?」
 A「上司に聞くことができたらいいですよね」
僕「うん、いいね。具体的にはどうしたらいいかな?」
 A「明日出社したら、朝一で上司に事情を話して聞いてみます」
僕「素晴らしいと思うよ」
本人との会話は以上です。その足で僕は上司Bさんに連絡を取ります。

僕「初日いかがでしたか。」
 B「問題なく終えられたと思いますよ」
僕「そうですか、ありがとうございます。ところで先ほどAさんと話したのですが、
  お仕事のご説明を頂いた際に、本当は聞いてみたいことがあったのに、聞けな
  かったと話していました。このことにはお気づきだったでしょうか」
 B「いえ、まったく気付きませんでした」
僕「そうですよね。でも明日朝一でBさんに確認してみたいとも話していました。」
 B「そうですか、それはありがたいです」
僕「ただ、本人にとっては上司に確認をするのは緊張するかも知れません。朝一で
  話せないこともあるかも知れませんが、その際にBさんは如何なさいますか?」
 B「しばらく待って来ない時は、私から『昨夜北村さんから聞いたけど何か本当は
   聞きたかったことがあるんだって』と声を掛けてみます」
僕「そうして頂けると大変助かります」

以上です。概ね毎回このようなアクションを僕は初日に実施します。ご理解頂けたかと思いますが、これが小さな火の消火活動です。障がいのある方を採用した際に発生する問題は基本的にコミュニケーションギャップが原因で引きおこります。小さなギャップに気づいた際に双方(障がいのある方も、上司や同僚も)が向き合うことが、最適な消火活動です。これができるチームは大きな火事には出会わなくなります、初期に解決するからですね。逆にこの小さな火種を隠して、気づかない振りをしているといつの間にか大きな火事になります。僕も大きな火事は消せません。その際は家を倒したほうが良い(雇用関係の解除)こともあると思っています。

【3日目】
2日目は本人が何かあれば連絡をもらうことにしていますが、ほぼ100%連絡はありません。3日目は通勤や会社にいることに少し慣れ始めるため、本人の視界が初日に比べて少し開き始めています。この時の所感は生理反射的なものではなく、徐々に理由を伴ったものに変わってきます。赤信号はNGですが、青信号は理由が伴っていれば歓迎したいものになります。よって望ましい反応は 青>黄>赤 の順です。また初日同様、本日の流れも確認し問題を探しながらも、それを自分の力でクリアできた事例を見つけて、「すごいじゃん」と褒めることにしています。3日目は問題が無ければ上司への連絡はしません。

【1週間目】
1週間もすると最初に任された業務にも慣れ始めるため、仕事を通じて貢献するという感覚も分かるようになってきている頃です。これからもここでやっていきたいと思えているかどうかが所感に反映されます。この段階で青になっていれば、極めて高い確率で早期退職はありません。この1週間の中での問題探しを行い、それが自発的に上司と解消できてれば良しですが、できていなければもう一度、本人と上司双方を促し、消化訓練を実施してもらいます。2,3度消化訓練をした組織はその後も僕がいなくても自発的に活動をできるようになっています。

【1か月目】
双方に個別面談の必要性を確認し、問題なければ三者面談を実施します。この段階で双方の関係が上手くいっていれば、それぞれの個別面談を要求されません。個別面談は上司なら本人に、本人なら上司に言えないことがあるから必要なのです。お互いに言えていなかったことも僕の前で上手に伝え、確認し、これからどうするかを話し合ってもらいます。僕はただのファシリテイトですね。僕からは配慮に関して、困りが発生していないかを確認します。ここで問題が起きていなければこのチームの就労定着は問題ないでしょう。さらに欲を言えばこの面談には上司と指揮命令者の2名が参加するのが望ましいです。理由はいずれかが異動になることが、このチームの次の危機だからで、2名同時異動は極めてマレですね。

【3か月目】
1か月目の終わりに、3か月目を実施するかどうかを確認し、本人または上司から要求されれば実施します。大抵の場合要求はされますが、3か月はほぼ雑談で終わります。殆どの組織では僕の支援を不要としており、ナチュラルサポートの形成ができています。僕はこれまでに発生した問題をどのようにクリアしたかをお尋ねし、双方を褒めることがお仕事です。必要に応じて少しのアドバイスをします。

【6か月目】
3か月目終了時に、次回は6か月目ですが、実施しますかと尋ねると、「もう大丈夫」と支援不要を選ぶケースもまずまずあります。必要とされる場合も、たまには僕に会いたいという理由くらいで、支援が欲しいと思われていないですね。彼らがとても良いチームになっていることを見に行くのが大抵の場合の僕の仕事です。これ以降の定期サポートはしていません。彼らではクリアしきれない問題が発生した場合(昇給昇格、転職などの際の対応が多い)はアクションします。

受け入れる雇用現場と外部の支援者、そして入社した本人。それぞれが何を目指すのか、そのためにどのような支援が必要なのか、それぞれの思惑が違う場合が多いように思います。途中にも書きましたが、就労定着を採用後だけで実現しようとすることは大変難しいと感じます。就労前に、入社する本人の思考行動習慣をどのようにトレーニングするか、どのように雇用現場と本人をマッチングするか、そして就労定着方針をどうするかは最低限やっておくことではないかと考えます。

本日のレポートは以上です。

<次回予告>
第24回4bunnno3サロン 2021年12月11日 午前10時00分
テーマ:ゼロヒャク思考な方の対応の仕方

最近、企業や福祉の現場の方からのご相談で多いのが「支援対象の方が極端な思考に陥っていてどのように対応して良いか分からない」というものです。やると言ったら完璧さに固執し、少しでもできないところがあれば価値がないというような極端な思考の仕方をゼロヒャク思考やゼロサム思考、または白黒思考と言います。

そこで次回の4bunnno3サロンでは、ゼロヒャク思考の方の対応の仕方について情報交換したいと思います。ご興味のある方は是非ご参加ください。

 ~情報交換内容~
  ・ゼロヒャク思考の事例
  ・ゼロヒャク思考の方で困ること
  ・ゼロヒャク思考に効く、対処法


来年3月までの4bunnno3サロンの日程は以下の通りで、テーマは未定です。ご希望のテーマがあればお寄せください。

<今後のサロンスケジュール>
第24回4bunnno3サロン 2021年12月11日 午前10時00分
第25回4bunnno3サロン 2022年1月15日 午前10時00分
第26回4bunnno3サロン 2022年2月5日 午前10時00分
第27回4bunnno3サロン 2022年2月26日 午前10時00分
第28回4bunnno3サロン 2022年3月19日 午前10時00分


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既存・新規いずれの方もご参加連絡お待ちしております。

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