2021.03.23
know-how
僕が推奨するセルフケアトレーニングは、ご当事者が就労準備段階で取り組んでおくことで就労定着に力を発揮します。以前から、雇用したあとの雇用現場で簡単にこのセルフケアトレーニングと同じようなことをしてみたいというご要望はありました。そこで、今回2つの企業様からのご依頼で「デイリーシェアリング」というノウハウを作りました。
なぜセルフケアトレーニングが重要なのか、この場でもう一度解説しておきます。
僕は障がい者雇用がうまく進まないのは、既存のノウハウでは雇用現場に運用負担が大きいためと説明しています。そこでこの負担を分散する工夫が大切です。
そのために就業者が身に付けるのがセルフケアスキルです。
セルフケアスキルとは、自分でストレスに気付き対処する力のことです。自発的に今の状態を把握し、それに合わせて回復対処したり、必要な配慮を相談してくれれば、不用意な状態の悪化を避けることができ、また周囲にも大きな負担がかかりません。
一方雇用現場に必要なのは、ラインケアスキルです。
ラインケアスキルとは、就業者がセルフケアや能力を発揮しやすい環境を整備する力のことです。就業者との信頼感を育てながら、本人主導のセルフケアを見守り、必要な配慮を提供したり、時には課題に対して一緒に考えるスタンスがあれば、ご本人も不安なく自分の状態を維持しながら能力を発揮して就業できます。
大切なのは、セルフケアスキルとラインケアスキルをマッチングすることです。適切な相手がいないとお互いのスキル効果を発揮しません。セルフケアスキルのある人が、ラインケアスキルのない会社に入社しても機能しませんし、逆も然りです。
ところが、最近よく耳にするのはラインケアができる雇用現場から、セルフケアができない就業者が社内にいて困っているというものです。これはなかなか大変ですね。
ここで冒頭にご紹介した、デイリーシェアリング の出番です。
セルフケアトレーニングと同様に、就業者がセルフチェックしたことを使って、上司や同僚と2,3分の面談をするというものです。
2時間ほどの研修で、上司や同僚の方には以下のことを実施して学んで頂きます。
1.デイリーシェアリングの概要と効果
2.ツールの使い方と運用の仕方
3.ロープレで実戦練習
運用の仕方は以下の通りです。
①ツールを使って本人がセルフチェック
②上司に1分弱で記載した内容を読み上げ報告
③上司から1つ質問
④今日の業務や配慮内容の確認
因みに、デイリーシェアリングで共有する情報は、以下の通りです。
2社にこの研修を提供し、さらにそれぞれ2週間後にフォローアップ研修も実施しました。フォローアップでは理解不足の解消と、実際に戸惑ったシチュエーションの報告から同場面を想定したロープレを実施します。例えば、報告の際に「今日は体調が悪いので、いつもの業務は避けたい」とメンバーが言った場合や、周囲が見ると調子が悪そうだが本人に自覚がない場合にどう対応するかなどです。
全部で3分程度の面談をするだけのデイリーシェアリングですが、効果は歴然です。ご参加者からは以下のような実施後の感想を頂きました。
・メンバーの方にも事前に目的や実施することを説明してから開始したのでお互いに
不安なく始めることができた。
・2週間程度で、自分のこと(不安がある、緊張がある、今日は調子が良くないなど)
に気が付く人が出てきた。
・毎日話す時間があるため、ちょっとしたこと(今までなら話さなかった)でも上司
に伝えるようになった。
・お互いの状態や背景を知っておくことで、仕事を進める際に気を付けたほうが良い
ことや、必要な配慮について一緒に考えやすくなった。
・相手の特徴に気づけるようになった。今までも知っていたつもりだったが、思って
いたことと実際は違うことに気が付いた。
・不安が減った。
・メンバーのことを知る。わかることを嬉しいと感じる。
・グループでロープレをすると他の人の対応が参考になり、学びが多い。
・ロープレでは本人の要求にそのまま応じてしまったが、本人からもっと話を聞き
出し、状況を正しく理解することをしたい。
・ロープレで自分の意見を押し付けようとしてしまったが、本人と一緒に考えると
いう姿勢をもっと持ちたい。
一方でこんなお声も聞かれました。
1)メンバーが不安定な状態で出社できておらず、まだ実施数が少ない。
2)周囲の見立てと、本人の見立てに差異があり、正しくチェックができているか
気になる
3)上司が報告を受ける時間を確保できておらず、習慣化できていない
この3つには以下のように追加でアドバイスをしました。
1)≫不安定な状態には理由があると思われます。まずは不安定になりやすいエコ
モード状態から抜けやすくするために、リカバリーの手法を使いこなせる
ようにしつつ、デイリーシェアリングを根気よく続けましょう。
2)≫周囲と本人の見立てが違うことを素直に伝えると良いでしょう。その際気を
付けたいのは認識差があることはNGであると考えないこと。素直に伝え・
話し合える関係を気づくことが優先です。その上で、課題があれば一緒に
考えて乗り越えると良いでしょう。
3)≫上司が忙しい時期に始めてしまったようです。いくつか手はありますが、
上司が時間を取りやすい時期に再度始め直すと良いでしょう。その際に、
上司不在のバックアップとしてもう一人報告相手を作っておきます。
デイリーシェアリングをすると現場の上司や同僚が本人理解をしやすくなり、ラインケアも機能しやすくなるでしょう。これは障がいの有無に関係なく、マネジメントに有益な効果をもたらします。
・メンバーのメンタルヘルス管理に
・チームメンバー間の信頼関係の醸成に
・障がい理解に
・双方の不安解消に
・リモート環境下でのチームコミュニケーション不足の解消に
今年はラインケア意識のある雇用現場にデイリーシェアリングを広めたいと思います。