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多様な人たちが輝くためのパターン・ランゲージ
③「No.1 プラスへの転換」

2021.06.01

know-how

※キラパタはこちらから無料でダウンロードが可能です

キラパタ最初のパターンは「プラスへの転換」です。
これは 受け入れ準備パターン の A)障がい者雇用を始める前に というグループに属します。A)グループはこのプラスへの転換1つだけです。

「プラスへの転換」は障がい者雇用を実際に始めようとする方、つまり人事の責任者の方や経営陣の皆さんに認識して欲しいものです。
障がい者雇用を始めようとする理由の第一位は、法定雇用率の問題をハローワークなどから指摘されることです。これ以外の理由をあまり聞いたことがありません。つまり、正直なところ重い腰を上げたというものですね。

障がい者雇用に取り組む企業がうまくいかない大きな理由の一つは、この後ろ向きな気持ちのまま始めることにあります。最初から本気ではないのです。

僕の小学校3年生の娘が受講するオンライン授業では、最初に先生が「いいかい、君たち今から勉強始めるぞ。じゃ、いつもの掛け声いくよ! やる時は?」と聞くと画面のこちらで娘が「やる!」と大きな声で毎回返答するところから始まっています。そうです、子供たちには「やるときは一生懸命やりなさい」と言うのですから、私たち大人も仕事ではそうありたいですよね。

ということで「No.1 プラスへの転換」は大人の「やるときは、やる!」の宣言です。
多くの企業から「障がい者雇用で何から始めればいいでしょうか」と聞かれますが、最初はこれです。

因みに障がい者雇用を始めていた企業に何から始めたかお話を聞くと、
1.業務の切り出し
2.HWへの求人出し
3.採用してスタート
と、まずは分からないなりにやってみることを始めていることが殆どです。
「わからないことはまずやってみる」なんとなく良さそうな気もしますが、実はここにも落とし穴があります。

ところで皆さんは 失敗の本質 という本はご存じですか。不朽の名著ですから、ご覧になったことがあるかもしれません。先の大戦で日本がなぜアメリカに負けたかという分析がなされ、その中に日本人の特性が見事に描かれています。

文中に次のような指摘があります(僕なりに要約します)
「日本軍は戦争の開始と終結の目標があいまいで、それを許す空気感が組織にありました。緒戦の真珠湾奇襲に成功すると、このままなんとなく上手く行くのではないかという雰囲気になり、思考を停止してしまいます。」
「日本人が得意とするのは、現状から始めて、場当たり的に物事に対処して積み上げていくこと(これを帰納法と言います)です。このスタイルでは実行する現場と判断する司令部との密で正確なやり取りが必須ですが、あいまいな目標と空気感によりこの密なやり取りが機能しませんでした。結果現場での経験が全体として蓄積せず、正しい方向に修正できず破綻します。」

如何ですか? 心あたりがありますよね。現在の日本のコロナ対応を見ていてもズバリ当てはまっているように感じます。

皆さんの障がい者雇用もこの道を通っているケースを多く見ます。障がい者雇用を目的にしがちですが、本当は手段ですね。目的と捉えると現場の短期的な取り組みで到達しようと考えますが、実際は1年がかりの取り組みです。ですから、最初から組織全体で取り組むことが正解であり、そのほうが結果的にコストが少なく済みます。

しかし、障がい者雇用の社内共通したゴールイメージは作られずなんとなくで始まり、雇用現場と人事や経営の間に密なコミュニケーションは存在しないため、最初は現場単独の頑張りでうまくいっても、そのうち傾き始めてしまうため、人やパワーを逐次投入するも、一度傾くと立て直しには大変な時間と手間が掛かってしまう・・・

これは避けたいものです。
ではどうするか、障がい者雇用を始めることと、そのゴールイメージを明確に言葉にして社内共有するのです。それが「プラスへの転換」です。

最初は社内の多くの方が、障がい者雇用に無関心もしくは、マイナスイメージを持っています。このまま始めると、協力せず足を引っ張る人がいたり、うまくいかないことを密かに期待している人がいます。「だから私は上手くいかないって言ったんだ」と後から言う人が沢山出てきます(笑)

ですので、ひと手間掛けましょう。
例えば、この会社で障がい者雇用が上手くいっている3年後の未来予想の話をするのです。障がい者雇用は目的ではなく、手段であること。3年後の社内では障がいのある人が笑顔で働いていると同時に、一緒に働く皆さんにも優しい環境になり、多様性を認め合う組織になっている。新人も、女性も、中途入社者も、高齢の社員も誰もが能力を発揮しやすい会社になっている、といった具合です。会社で掲げる理念や経営指針に絡めてお話すると良いですね。ここまで言うと、適当に進めるわけにはいきませんから「やるときは、やる!」という心構えにも繋がります。

これはあまりに大げさというのであれば、自社にあったお話しで良いでしょう。
障がい者雇用は法律で決まっている企業の社会的役割で、当社は出遅れていた。今回実際に始めるにあたり、雇った障がいのある方が、不自由なく能力を発揮できる環境を作りたいので、皆さんの協力をお願いしたい、なんて具合でしょうか。

いずれにせよ、これは経営者や人事のトップにしかできないことです。障がい者雇用を後ろ向きなこととして考えず、前向きに取り組める組織の思考にすることから始めましょう。

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