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多様な人たちが輝くためのパターン・ランゲージ
⑤「No.3 職場サポーター」

2021.06.22

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多様な人たちが輝くためのパターン・ランゲージ⑤「No.3 職場サポーター」

※キラパタはこちらから無料でダウンロードが可能です

今回のキラパタ解説は「No.3 職場サポーター」です。
前回、 受け入れ準備パターン の B)入社前のひと手間 というグループには、障がい者雇用で起きがちなトラブルを事前に避けるための大切な3つのパターンが書いてあるとお話ししていました。今回はその2つ目のご紹介です。

職場サポーターは、チーム間の相互信頼の安定強度を高める仕組みです。障がい者雇用など、多様な方と一緒に過ごす際には信頼関係の構築がとても大切です。ご存じの通り、信頼形成には時間が掛かる一方、揺らぐとあっけなく崩れることもあります。この揺らぎを如何になくすかという考え方を家の構造から学ぶことができます。

家作りには、土台にどっしり立ち家の荷重を支える「柱」、家の機能を支え柱と連携する「梁」、そして耐久性を高める「筋交い」があります。組織に置き換えると、それぞれ「上司」「指揮命令者」そして「他の同僚」です。

3つの職場ケースを考えてみましょう。
最初は、上司が指揮命令者も兼任していて、あとは誰も関わらないという職場ケースです。多くはありませんが実際に存在します。
このケースでは柱と梁が一緒ですから家の機能が弱いですね。障がい者(以下Aさん)は上司一人とだけ話し、あとは誰とも基本話すことはありません。Aさんは上司だけを頼る構図になっています。しかし、上司が離席することもあるでしょう。その際、他の方に聞いていいよと言われていても臨機応援に話しかけることは難しいかもしれません。何故なら精神障がいには不安が強い特徴があるからです。さらに上司が半年後に異動なんてことになると、柱をまでも取り去ることなので最早どのように家を維持して良いかわかりません。ご想像に難くなくこのケースでは、就労定着しないと断言できます。

次に、最も多い職場ケースで柱と梁はあるけれど、筋交いはないケースです。つまり上司のほかに、実際に仕事を教えてくれる役割(指揮命令者)が別にいるというチーム構成です。
家としての機能に問題はありません。しかし、このケースでは指揮命令者が負担や責任を感じていることが多いように思います。ですから上司の関りが重要になります。それでも上司も忙しくサポートが機能しない場合は、やはり指揮命令者の負担が大きくなるかもしれません。またその場合、指揮命令者に負担を掛けまいと意識することから、Aさんは指揮命令者に質問したり、話しかけることを遠慮することもあるようです。
ここまでの2つに共通するのは、多くの同僚がAさんに無関心になりやすい仕組みと言えます。

最後は柱も梁も筋交いもあるケースです。
上司と指揮命令者が中心的役割ですが、普段から声を掛けてくれる同僚はAさんにとって馴染みのある存在です。上司が会議で指揮命令者も席を外している時にAさんに困ったことがあった時でも、Aさんは不安になり過ぎず同僚に相談することができます。同僚が仕事の指示をすることはNGですが、アドバイスや情報提供であれば可能でしょう。また、同僚がAさんの困っていることを知っていれば、指揮命令者に伝えることが可能な場合もあります。このような緩やかな関わりの存在は組織に少しの余裕を生むため、どこか一か所に大きなストレスが掛かり過ぎることを回避してくれます。上司や指揮命令者が異動になっても、職場サポーターが新たにその立場になることも容易ですし、新任の上司が入った時も不安定になることも少ないようです。

数年前、LITALICOさんの調査で、社内に気楽に話せる人がいる場合といない場合での定着率に関する結果を発表していて、そこには就労定着に大きな差があるというものでしたが、僕の実感では、いる場合でもその数が単数と複数では差があります。

障がい者雇用では有事対応を前提に構築することが大切です。前回も書きましたが、トラブルが起きるとコストが跳ね上がるからです。これを少しの投資で避けることをお勧めします。つまり同僚が筋交い機能としての「職場サポーター」を担うのです。

職場サポーターの役割は、近所の仲の良い知り合いのイメージです。少し離れたところで見守り、1日1回で良いので近くを通りかかった時に一声を掛ける、それだけでOKです。業務の直接指導はしません。それは上司や指揮命令者にお任せです。

これだけで、障がいのある方は心理的に孤立せずに済み、また多くの方に見守られていることから安心感が増します。精神障がいは不安が強いとお話していますから、不安の低下にもつながる良策なのです。

では、職場サポーターは誰に任せれば良いでしょうか。
前回の「まずは出してみる」の時に、実は障がいのある方を応援したいと思っている方が社内には意外と存在するとお話ししましたね。その方にお願いすると喜んで引き受けて下さいます。彼らは(私は、上司でも指揮命令者でもないから関わり方が難しい)だとか、(余計なことを言って混乱させたり、迷惑に思われたらどうしよう)と悩んでいます。そこで職場サポーターの役割を与えるのです。彼らは他人貢献の役割を得ることで、幸せな気持ちになります。

さらに、この仕組みは周囲の障がい者理解の促進効果や、職場の空気を和やかなものにする効果もあります。例えば僕の元教え子の女性が務める会社ではこの役割を会長さんがやってくれていて、

「お、今日も頑張っとるな」
「今どんな仕事をしてる?・・・おー難しいことをやってくれているな、ありがとう」

と、毎日話しかけてくれるそうです。社外でも見つけると声を掛けてくれるとか。
彼女が、職場を好きな理由がわかるように思いませんか。

おさらいです。
・障がい者雇用では、チーム間の相互信頼の安定強度を高める仕組みが必要
・職場サポーターには、相互信頼強度を高める筋交いの機能がある
・影ながら応援したいと考える同僚に、職場サポーターの役割をお願いする

入社前のひと手間で、土壌が豊かになってきているように感じますね。次回は僕がキラパタの中でもっとも皆さんにマスターして欲しい最強メソッドをお伝えしますので、お楽しみに。

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