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多様な人たちが輝くためのパターン・ランゲージ
⑦「No.5 ウェルカムサイン」

2021.07.27

know-how

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今回のキラパタ解説は「No. 5 ウェルカムサイン」です。
一緒にはたらくパターンシリーズの C)スムーズな立ち上がり というグループの最初のパターンですね。

「当社では、初日にランチで歓迎会をするようにしていますから、これは大丈夫」という職場も多いようですね。でも、ここではもう少し本質的なことをお伝えしますので、是非お付き合いください。

まず、ウェルカムサインと聞いて何を思いますか?
「今日から一緒に働く仲間を気持ちよく迎えること」という回答が良く聞かれますが、その通りです。では、なぜウェルカムサインが必要なのでしょうか。この質問には様々なご意見が出てきて、あまり皆さんは考えていなかったのかもしれません。「そうしたほうがいいから」のように少し投げやりなご意見も伺います(笑)

今回は新しく入社するAさんを通じて考察したいと思います。
まずAさんは他の障がいのある方と同じように、社会人としてのブランクがある、もしくは初めて社会に出るケースが多いでしょう。現職の方が転職するケースもあるかも知れませんが、殆どの障がい者雇用は社会ブランクのある方の雇用です。
社会人としてのブランクがあるということは、以前は社会に属していた、つまりお仕事に就いていたことがあり、その後お仕事を離れなければならなかった経緯があるということですね。その際、仕事に対する感情は後ろ向きであった可能性が高いと考えられます。離職した理由が直接仕事や上司・同僚との関係にあるかもしれませんし、そうでなくてもその際に職場や同僚に迷惑を掛けたと考えてしまうことが想定されます。つまり、Aさんにとって仕事を通じて社会に戻るということは、かなり勇気のいることなのです。

次にAさんが辿りやすい思考を見ておきます。社会から離れて今までは一段小さなコミュニティに属していました。最小であれば「家族」ですし、次の段階として「学校」や「福祉事業所」などが多いと思います。それらの中で少しずつ自信を付け、社会性を高める準備をしてきており、場合によっては事前に企業での実習を経験している方もいるでしょう。しかし、いずれにせよそれらは安全の保障がなされやすい場所です。上手くいかなくても休んだり、戻ったり、時には離れたりすることができます。しかし、「会社」というコミュニティに所属すると休む、戻る、離れるは最終手段だと考えられていることが多いですから、「自分は大丈夫なのだろうか、通用するのだろうか」という不安が強く発現します。

ここまでをまとめるとAさんは、勇気を奮い立たせているものの、強い緊張や不安に陥っている状態 という極めてバランスの良くない心の位置で初日の職場に現れていることがわかります。頭は回っておらず、指示をされても何を言われているのか理解することが難しく、さらには自分で何をして何を言っているのかもわかっていないかもしれません。実際に僕の教え子たちは、福祉施設内や企業実習では大丈夫というところまで育てた優秀な方でも、就業初日は何もできなかったという方が殆どです。

では、冒頭でご紹介した「初日のウェルカムランチ」という方策はどうでしょうか。もちろん大丈夫な方もいるかもしれませんが、さらに緊張や不安が増すことで受け入れ側が期待するほどの効果が見込めないことも多いように感じます。ウェルカムランチを実施するなら落ち着き始めた入社1週間ごろが良いかもしれませんね。

では、初日のウェルカムサインでは何をすべきか。
ウェルカムサインは手段ですから、それを通じて何を目指したいかを考えると良いでしょう。初日に目指すことは 勇気を奮い立たせているものの、強い緊張や不安に陥っているというバランスの悪い心の位置を改善する ということで良いでしょう。

もう少し分解してみます。
最初の勇気を奮い立たせているというのは、良い方向ですね。ただ少しその力が強すぎるのでリラックスが必要だとわかります。
次に、強い緊張や不安の源泉は、自分は大丈夫だろうか、通用するのだろうかでしたから、安心が必要ですね。つまり、ウェルカムサインに求められる効用は「リラックス」と「安心」です。

しかし、多くの会社では最初の朝礼で一言話してもらうというような取り組みが多いですね。社会人なんだから当たり前という考え方がベースにあるのだと思われます。前回も書きましたが、配慮とは本人が能力を発揮するために必要な周囲のサポートや環境の工夫のあり方を、本人と職場で一緒に考えることでした。会社のしきたりや当たり前を優先することではなく、本人がより能力を発揮しやすいためにはどうすれば良いかを考えることです。

例えば、上手な会社では入社前に社内でAさんの特徴を共有しておき、いつもは入社初日の挨拶を入社1週間目の朝礼で実施することにしています。それでもAさんのことは知っていますので、職場サポーターを中心に既存社員から「おはよう」「今日からよろしく」とさらっと声を掛けてくれます。他にも僕が見てきたウェルカムサインをご紹介してみます。

<奮い立った勇気をリラックスするウェルカムサイン>
・入社前に職場に招待して、メンバーとの事前顔合わせ
・初日は出社したら、上司と2人でまずはラウンジでお茶
・本人の名前も入った同僚の座席表を準備 >>名前を覚える苦労の軽減策
・初日および最初の1週間の過ごし方の書類を渡し説明
・初日に関わるのは上司と指揮命令者のみ
・初日のランチの取り方の確認(一緒がいいか、一人がいいか。もし一人を選択する
  場合は一人で取りやすい場所やお店の紹介)
・部署内の挨拶周りやウェルカムランチは、慣れてきた1週間目で実施

<自分は大丈夫? 通用する? という緊張や不安に効くウェルカムサイン>
・座席や必要備品、什器などの事前手配 >>自分の場所や物がある
・職場の方からの気楽な声掛け >>受け入れられている
・上司や指揮命令者からの「一緒に働けることを楽しみにしていた」という声掛け
  >>仕事で期待されている
・仕事の説明では ①アサインする業務の目的、②業務全体(一連)の流れ、
 ③本人の担当職務、④本人に期待すること(本人のどの能力に期待しているかの
 説明)、⑤できそうかどうかの確認 >>仕事で期待されている 
 ※これは次回「No.6 仕事の誇り」で詳細に説明します
・簡単にできることを依頼し、大丈夫、できるという小さな成功体験を2,3回積む
  >>自分の言動が通用する
・何かに取り組んでもらったら「OK」という承認や「ありがとう」と感謝を伝える
  >>自分の言動が通用する
・業務に取り組んだ後にはできている部分ともう少しこうして欲しいというフィード
 バック >>自分の言動が通用する 
 ※これは次々回「No.7大丈夫の確認」で詳細に説明します

必ずこうしなければいけない、というものはありません。ウェルカムサインでは職場の皆さんにどうすればAさんがリラックスし、緊張や不安を取り除けるかを考えて頂ければと思います。

おさらいです。
 ・障がいのある方は勇気を奮い立たせているものの、強い緊張や不安に陥っている
  というバランスの悪い心の位置で初日を迎えていることを知る
 ・会社のしきたりや当たり前を優先することではなく、本人がより能力を発揮しや
  すいためにはどうすれば良いかを考える
 ・奮い立った勇気をリラックスするウェルカムサインを考える
 ・自分は大丈夫? 通用する? という緊張や不安に効くウェルカムサインを考える

今回は以上です。
次回の「No.6仕事の誇り」では本人のモチベーションを引き出す方法をかんがえます。お楽しみに。

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