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多様な人たちが輝くためのパターン・ランゲージ
⑧「No.6 仕事の誇り」

2021.08.16

know-how

※キラパタはこちらから無料でダウンロードが可能です

今回のキラパタ解説は「No. 6 仕事の誇り」です。
一緒にはたらくパターン C)スムーズな立ち上がり というグループの2つ目です。

このパターンのサブタイトルは「引き出そう、最強モチベーション」としました。仕事に誇りを感じていると、モチベーションが高いからです。しかし雇用企業の支援をしていると、現場の上司や同僚から見たご本人に関して「やる気がない」「仕事にモチベーションを感じない」というお話を伺うことも多いです。

この状況にはいくつかの理由が考えられます。
一番多い原因は、ご本人のセルフケアが整っておらず状態が不安定であること、また上司や同僚のラインケアとかみ合っていないことです。これらについての解説は今回のテーマではないので割愛しますね。

セルフケアとラインケアの関係を構築できている場合、次は相互信頼関係の問題を疑います。ご本人は上司や同僚を信頼できていないか、もしくは上司や同僚がご本人を信頼できていないか、はたまたその両方が発生しているかです。

ところで C)スムーズな立ち上がり の スムーズとは 相互信頼関係にトラブルが起きない という意味だと考えて頂くと良いでしょう。違う言い方をすれば、チームの作り初めに陥りがちなポイントをまとめたパターン のグループということです。その一つに 「ご本人が仕事に誇りを持てていない状況」 というものがあるのです。まずはその原因を探ってみましょう。

前回に引き続き、新しく入社した障がいのあるAさんを通じて考察したいと思います。
まず、Aさんには「自分は大丈夫なのだろうか、通用するのだろうか」という不安があることを思い出してください。この言葉は、最初は「新しい環境に慣れることができるだろうか」「自分の居場所はあるのだろうか」というものですが、その約束がなされると、不安は次のステージに転換されます。つまり「自分はこの会社に必要な存在だろうか」です。

このテーマの肝は雇用企業のホンネと目標の設定にありそうです。
障がい者雇用で、多くの企業のホンネは「法定雇用率の達成」が目的です。しかし、それでは現場は機能しません。採用すると決めた段階で、目標を「就労定着」つまり、迎えたAさんを 組織にプラスな戦力とすること に置き直す必要があります。

これができている企業とそうでない企業があるようです。できていないと、関わる端々に「雇用してあげている」という上から目線のニュアンスが含まれてしまいます。たとえば「簡単な仕事だからこれくらいなら大丈夫でしょ」と悪気なく言ってしまうのです。

因みにキラパタには採用企業が一番知りたい「仕事の切り出し」というテーマのパターンは含まれていません。「仕事の切り出し」には本当は無いけれど障がい者用に作り出した仕事という感覚が含まれやすいのです。普段の中途採用ではそんなことを考えることはありませんよね。障がい者雇用で必要なのは「仕事の切り出し」ではなく、「今ある仕事をどのようにしたら障がいがあってもできるかの方法探し」だと考えたほうが良いでしょう。

話を戻しましょう。
雇用現場でAさんに仕事の誇りを持ってもらうために必要なことは
 ・現場の役に立つお仕事を、Aさんにできる方法で準備する
 ・そのお仕事について次のことを説明する
   - 意味(誰の役に立つものか)
   - 全体工程(Aさん以外の方の関りを含む)
   - 大切にして欲しい価値観やポイント

最初は以上で良いと思います。「はい、じゃこの仕事をお願い」だけでなく、5分余分に時間を使って以上のことをお伝えするだけで、「大切なお仕事を任されている」と感じたAさんの中では次のような心理が生まれます。

大切なお仕事を任されている →自分はこの会社に必要な存在
 →自己受容感のUP →モチベーションのUP

仕事の誇りを導く次のような事例がありますのでご紹介します。
 ・前後工程の担当者を紹介する
 ・担当業務の先にいるお客様(仲間)の感謝の声を共有する
 ・業務改善などの案だしを任せる
 ・担当業務にまつわる会議に参加してもらう
 ・できて当たり前と考えず「今日もありがとう」と感謝の言葉を掛ける

もう一つお話しして今回は終わりします。
障がい者雇用がうまく機能している雇用現場で良く耳にするのが
「Aさんが高いモチベーションでチームに貢献してくれるのを見ると、その雰囲気が他のメンバーにも伝わるんですAさんの存在は今ではなくてはならないものです」という、Aさんのムードメーカー性を称えるもの です。

逆にうまくいっていない雇用現場の多くは
「Aさんの仕事への取り組み方がチームの雰囲気を悪くして困っています」と仰います。Aさんが悪いと考えがちですが、Aさんは最初からそういう方だったのでしょうか。それとも組織との関係の中でそのような心の位置に変わっていったのでしょうか。

仕事の誇りはAさん一人ではなく、雇用現場すべてに影響する大変重要なポイント であることにお気づき頂き、そのための現場のあり方をご検討頂けると幸いです。


では、今回のおさらいです。
 ・自分の居場所を与えられた障がい者は、次に「自分はこの会社に必要な存在
      だろうか」という不安に陥る
 ・雇用企業や現場は、目標を採用や雇用そのものではなく、「就労定着」つまり、
      迎え入れた方を組織にプラスな戦力とすることに置く
 ・大切なお仕事を任されている →自分はこの会社に必要な存在 
       →自己受容感のUP →モチベーションのUP の心理を生み出す
 ・雇用した障がい者のモチベーションの質は、周囲に大きく影響する

今回は以上です。
次回は「No.7大丈夫の確認」ですね。実戦で日常的に使うコミュニケーションスキルです。お楽しみに。

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