2021.02.10
report
就労・定着支援に関わる方が相互に気づきを高め、学びを深める4bunnno3サロン、本年最初の第10弾を実施しました。
10回というメモリアル回に到達したことを嬉しく思います。
冒頭は全員で近況報告をしたあと、前回に引き続きキラパタ(多様な人たちが輝くためのパターン・ランゲージ:川崎市のHPからすべてダウンロードすることが可能)の解説から始めました。今回は採用に関するノウハウです。
【精神障がい者が活躍できる職場のつくり方 キラパタ③】
前回までの講義で、慣れていない企業も精神障がいのある方を活かすマネジメントや後押しの仕方についてなんとなくわかって頂いていると思います。そこで次に必要なのが
「どんな方を雇用すると良いか」ということですね。今回はココをお話しします。
前回同様企業のホンネ3つから考えます。
ホンネ1)何を任せて、どのように育てたらいいのかわからない
まず大切なのは、就業者に働くモチベーションがあることです。過去多くの上手くいかないケースを見ていると、何を任せるの前に、そもそも仕事をする心構えができていないことが多いことに気が付きました。働く理由は、お金を稼ぐことや、認めて欲しいというものは誰でもありますが、それだけでは長続きしなかったり、うまくいかないことが発生します。仕事をする上で「自分の成長」と「周囲への貢献」に心を置けるとしあわせになりやすいことが分かっています(今度、このことに関して記事を書きますね)。その上で自分に何ができるか、向いているか(逆に言えば何が苦手か)がわかっている方が採用対象にふさわしいと言えます。
ホンネ2)コミュニケーションが取れず、必要な配慮がわからない
仕事をする多くの場合において、上司や仲間との最低限のコミュニケーションが発生します。饒舌であったり、得意である必要はありません。必要な情報共有や報告、相談ができることで十分です。こういったコミュニケーションはチームを作るうえで大切であることを認識し、準備段階でコミュニケーションのトレーニングを受けている方が望ましいですね。
ホンネ3)トラブルが発生し、業務以外に取られる時間が多くなる
問題が起きた際に、問題や相手と向き合えず「もういい!」と早々に信頼を放棄する方がいます。自己肯定感や、周囲との関係構築力などが作用します。問題はあるけれど一緒に乗り越えようとしてくれる方が望ましいですね。
ではこれらのホンネに合わせた、採用に関する情報の提供と解説を試みます。
ホンネ1に対して、気づき⑩「継続的な働く準備はホンモノ」を提供します。
中途障がいであるメンタル疾患では、ある日急に昨日と違う自分になります。不必要なほどの不安感や焦燥感に強い身体症状、そして疲労感に苛まれます。なぜ自分だけがこんな風になったのか、という考えから自己肯定感や、自己有用感を失う過程を辿ります。それらを乗り越え社会に復帰するには時間が掛かるものです。病状が回復してから、自分の症状を受容し、家族や医療、支援者のサポートを受けながら徐々に培うことになるでしょう。しかし、実は就業を目指す方の中には何かに駆られて、勢いで仕事を探す方が多く混じります。残念ながらその状態で彼らが入社してもうまくいかない可能性が高い。
どのように発症したのか、発症後どのような状態に至ったのか、誰のどのようなサポートを受けたのか、回復にどのくらいの時間が掛かったのか、現在の状態はどのようなものかなどの話を聞くことで、積み上げてきた実績を感じられるかどうかを見極めることをお勧めします。
ホンネ2に対して、気付き⑪「配慮不要という言葉の裏」をご紹介します。
僕の感覚では障がい者雇用に取り組む企業の8割は、本音では「配慮不要な障がい者を採用したい」と考えています。この潜在的な価値観によって、「私は配慮がいらない」と言ってしまう人を採用してしまいがちです。
まず障がい者雇用に “配慮がいらない人” はありえないと捉えましょう。
配慮がいらないという方(のほとんど)は、障がいの受容ができていない方と捉えて良いでしょう。逆に自分の苦手を理解し、それを開示することができ、さらに「必要な配慮があれば十分に業務貢献ができる」という価値観に至る準備ができている方は採用基準をクリアしています。必要な配慮は何かを尋ね、そこから「どのようなサポートや環境を提供すれば就業できるか」、「自社にはそれが提供できるか」を考えることが面接官の重要なお仕事です。
最後にホンネ2と3に対して、気付き⑫「チームとして向き合う意思」のノウハウをご紹介します。
本採用の前に1週間程度の実習を設けることをお勧めします。既にやっている企業も多いと思いますが、ほとんどのの場合、就業者の業務能力をチェックしているようですね。僕の視点は少し違います。実習では相手の言葉を受け止め、自分の意思を伝えられることを確認します。メンタルの方は質問をすると「大丈夫」や「はい」と答えますが、これは分かっているからでも、従順だからでもなく「不安」だからというケースが多いと思います。僕だって、知らない国にポンと置かれて「わかったか?」と聞かれたらYESと言っちゃいます。ではどうするか。シミュレーションをお見せしますね。
上司「では、仕事の説明をしますね。・・・・こんな感じです、どうですかわかり
ましたか?」
本人「はい、大丈夫だと思います」
上司「そう、良かった。ではやってみて下さい。何か困ったことがあったら声を掛け
てくださいね」
本人「はい」
~そのまま15分放置~
上司「どう、進んでいますか?」
本人「すみません、実はここがわからなくてほとんど何もできていません」
上司「一度の説明じゃわからないこともありますよね。ところで、先ほど私が最後に
言ったことを覚えていますか?」
本人「すみません、どんなことでしょうか」
上司「お何か困ったことがあったら声を掛けてくださいねと、言っていました」
本人「確かに言われました」
上司「この15分の間に困っていましたか?」
本人「はい・・・」
上司「でも、聞いていいのかな、こんなこと聞いたら叱られるのではとか考えちゃい
ましたか?」
本人「はい、仕事を任せてもらったのにこんな事じゃだめだと思ってしまいました」
上司「責任感があることはいいことですね。でもそれ以上に大切なのは、私たちは
パートナーであるということです。一つ共通のキーワードを作りませんか。
『困ったら共有』、一度言ってみてください」
本人「困ったら共有・・・」
上司「そうです、あなたが仕事上で困っていることは私にはわからないことも多い
のです。困っているとあなたの本来の力が発揮できないですよね。私には
そちらのほうが困ります。ですから、今後仕事の中で困ったことがあったら
共有して欲しいです。」
本人「なるほど、そうですね。わかりました」
上司「ありがとうございます。ではもう一つ一緒に考えて欲しいのですが、どの
くらいの時間困ったら共有しますか?1時間、それとも30分?」
本人「なんでもすぐに尋ねるのではなく、自分でわかるか少し考えると良いかなと
思いますので、5分くらい困ったらお伝えに行こうと思いますが、それで
良いでしょうか?」
上司「素敵な考え方ですね。でも実際に時間を図る必要はありません。私としては
3分くらい悩んだら声を掛けてもらえると良いかなと思っています」
本人「わかりました、3分困ったら共有します」
上司「はい、よろしくお願いします」
チェックポイントはこんな感じの会話ができるかどうか、その後実際に数分困ったら共有することができるか。つまり一緒にやっていこうとお互いに思える関係が作れるかどうかですね。
今回は以上です。
ここからは全員で議題を提案し合い、今回少しヘビーな2つのテーマでディスカッションをしました。
【ご当事者がどの程度障がいを受容できているかの見極め方】
障がい者就労において、障がいを受容できているかどうかは就労定着に大きく影響する要因だと考えます。実際に僕は支援時には障がい受容が進むことに重きを置きますし、企業にノウハウを提供する際には障がい受容ができていることを確認するように伝えています。つまり就労支援者としては、世に出して良いタイミングを見極めることであり、採用企業としては採用対象者を見極めることになります。
今回のディスカッションでは、なぜ障がいや疾患の受容が大切なのかという情報も多く交換されたようです。受容が進んでいない方は、必要なセルフケアや配慮に対しても後ろ向きになるため、十分に定着スキルを高めることができないことが挙げられます。また、障がい者として扱われることを厭うため、現行の支援の仕組みや雇用の仕組み(障がい者雇用枠)に乗ること自体に抵抗があるという現行システムとの不和が挙げられるでしょう。前者は障がいがあっても人の可能性は無限であるという価値観が通用するかどうか。後者は、僕自身も障がいを二律背反で捉える現行には問題があると感じていますので、どこかで改変されると良いなと思っています。
さて、本題に話を戻します。
障がい受容に関して、精神疾患の場合は、セルフケアスキル(①状態把握:変化する状態に気づく、②特徴理解:前兆、原因、影響範囲などが分かる、③回復対処:その状態からの予防・回復行動ができる、④配慮相談:必要なことを報告相談する)がある程度進められていることという話になりそうです。但し、100点でできる人はなかなか居ませんので、本人や周囲がある程度社会で出来ると思えることが必要そうです。これは支援者の経験値にも依りますが、客観的にはその段階で施設外実習として一般企業での経験をさせることで客観的な判断を受けると良さそうです。
また発達障がいの方の場合は、自分で気づくのが難しいため、他人からの指摘に対してどこまで受け入れるスタンスができているかという視点があるとの意見がありました。
他にも、ご本人の障がい受容には周囲の方の価値観が色濃く反映しているという指摘もありました。例えばご家族が「うちの家族に障がい者は認めない」という強い反応を見せる方は残念ながらいます。疾患の事実以上にこれらの強い反応は厄介なものだと感じます。
このテーマは以上です。
【現職を続けることと離職を勧めることの見極め方】
休職中の方であったり、現場との関係がうまくいかなくなる方のサポートをしていると、現職復帰や継続を目指すほうが良い場面と、今の状況であれば一度離職し別な可能性を見出したほうが良いのではないかと感じる場面があります。この見極めポイントはどういったものかというテーマです。
考え方は主に2つあると思われます。
①ご本人の状態が就業レベルではない期間が休職適用期間を越えてしまった場合
②ご本人と雇用現場、もしくはその会社との相性が良くないことが明らかである場合
いずれにせよ、明確な就労基準や就労者に求められる要件は文言化しておき、それを外れる場合は、1)注意・指導、2)勧告 を行いながらも、改善するための環境支援は欲しいですね。定着支援者や社会資源などの力も借りながら対処しても、基準を満たさない場合は離職を勧めることになりそうです。
その際にも、雇用現場とご本人だけで話をせず、第三者に仲介してもらいながら問題の解決を図ることも大切だとの意見もありました。さらに、感情で判断せず、ご本人の将来の可能性のためにもっともよい選択肢を探すことを基準にしているというご意見がありました。
以下は僕の考え方ですが、①の場合は就業レベルに回復した場合、優先的に再雇用するようなルールがあると良いなと感じます。また②の場合は障がい者雇用でなくても人事系の仕事をしていると時折みられるケースです。これが起こらないような採用をすべきですが一定確率で起こるでしょう。その場合、企業は当該人材のために次の就職支援をして頂けると良いと考えます。雇用期間中に就活をする猶予を与え、就活のための推薦状を書いて応援するくらいのスタンスがあると嬉しいですね。
今回のレポートは以上です。
今後の4bunnno3サロンの日程は以下の通りです。開催時間は午前10時からです。
第11回4bunnno3サロン 2021年2月27日
第12回4bunnno3サロン 2021年3月27日
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