2021.07.13
know-how
多様な人たちが輝くためのパターン・ランゲージ⑥「No.4 活躍のアイデア会議」
今回のキラパタ解説は「No.4 活躍のアイデア会議」です。
受け入れ準備パターン の B)入社前のひと手間 というグループの最後のパターンで、全部で16あるパターンの中でもっとも重要なパターンだと考えます。
ここまでの取り組みを一度振り返ってみましょう。
No.1プラスへの転換 で、TOPの覚悟や目指す方向性を全社内に伝え、
No.2 まずは出してみる で、雇用する現場のモチベーションを前向きにし、
No.3 職場サポーター で、組織の体制強化を図りました。
以前、B)入社前のひと手間 というグループは、土壌作りであると書きました。その意味でNo.4 活躍のアイデア会議は土壌に苗を植える工程と言えます。つまり今まで準備した社内の文化や価値観と採用した障がいのある方とを結びつけていく工程です。
結びつける際のポイントは「合理的配慮」です。
ここで合理的配慮とは何かを確認しておきます。文科省の資料では「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」と定義されていますが少し分かりにくいですよね。そこで僕は次のように説明しています。
本人が能力を発揮するために必要な周囲のサポートや環境の工夫のあり方を、本人と職場で一緒に考えること。このことを正確に理解していないと、お互いに不幸になることもあります。
例えば、「これはできません」「疲れたので休みます」という本人の主張を容認することが続くと、配慮モンスターという存在が生まれます。僕が支援した中でもっとも厄介だったモンスターは、仕事を依頼すると「私は障がい者でいま辛いんだ。そんな人間に無理やり仕事をさせるのか」と嚙みついてくる方でした。モンスターがいる職場では周囲も本人も不幸にしかなりません。でも知っておきたいのは、このモンスターは環境が生み出しているということ。モンスターを作り出す環境は絶対にNGなのです。
「これはできない」を認めるのではなく、難しさは何であるかを確認し、どうすれば(どんな時、どんな環境であれば、どんなサポートがあれば)できるかを一緒に考えることが配慮です。「疲れたので休みます」を認めるのでもなく、疲れたとは具体的にどのような状態であるかを確認し、どうすれば(どのくらいの時間、何をすることで)回復するのか、またどのくらい回復したら、その後は何ができるかを一緒に考え、実行してもらうことが配慮です。
採用している以上、彼らは戦力です。能力を買っているわけですから、障がい者マネジメントでは、彼らが最大のパフォーマンスを発揮できることを考えると良いでしょう。もう少し正しく表現すると、障がいとは日常や社会生活において難しさがあることなので、本人のその難しさに理解を示した上で、もっとも良いパフォーマンスの出し方をご本人と共に職場が考えることが大切だということです。
もう一つ殆どの雇用現場がやりがちなNGがあります。
それは、合理的配慮のあり方を雇用現場だけで決めていることです。僕の調べでは、雇用現場の課長が独断で決めたということが多いですね。また、僕が支援に入ると「この配慮で良いでしょうか?」と僕に聞いてくることがあります。何が問題か分かりますか。もう一度繰り返して書いておきます。
配慮とは本人が能力を発揮するために必要な周囲のサポートや環境の工夫のあり方を、本人と現場で一緒に考えること。
まず本人が考える場に入っていないのでダメですね。次に現場は課長だけでなく、指揮命令者や他の同僚もいるわけです。ですから必要なメンバーが集まらずに、どこかの密談や独断で決まってしまった内容を押し付けるような配慮は止めなければなりません。
そこで、今回のパターン、活躍のアイデア会議の登場です。
仕事を始める前に実施するのが最も有効なタイミングです。採用した障がい者(以下Aさん)、その支援者、上司、指揮命令者に同僚、職場サポーターが一堂に会して実施します。目安時間は30~45分。テーマは、Aさんの「難しさや困り」を一つ具体的に取り上げて、それを乗り越えるためのアイデアを皆で一緒に考えます。
この際に、3つの視点で考えることが大切です。
本人の努力:Aさんにここまでは期待したいこと、お願いしたいこと
周囲のサポート:Aさんのために周囲ができること(人による支援)
環境の工夫:Aさんがやり易くなるためのルールやツール(仕組みによる支援)
これをAさん含めて参加者各自が5分程度考えて、シートに記入してもらいます。事前にAさんの難しさの共有とシート記入をやっておいてから集まると時間短縮になりますね。
まずは記入した一人ずつの意見やアイデアを共有します。付箋に書き出して並べるか、ホワイトボードに書くと良いでしょう。ここからが会議の本番です。出た意見を元にAさんがもっとも活躍できるための、本人の努力、周囲のサポート、環境の工夫のバランスの良いあり方をチーム総意で議論して決定します。
この会議に参加した方は全員が当事者、つまり自分ごとになります。僕は多様性を受け入れるポイントは、他人ごとを自分ごとにできることと話していますが、活躍のアイデア会議を一緒に実施すると多様性の受け入れの感覚を掴むことができるのがとても素晴らしいと思っています。
チームの総意であれば、その決定内容はどんなものでも良いでしょう。バランサーとして支援者にも入って頂いていますから、その方の意見も反映してみてください。障がい者雇用の環境つくりに絶対的な正解はないと考えます。障がい者と雇用現場の組み合わせぶん、答えがあるかも知れません。大切にしたいのは、Aさんの難しさや困りに焦点を当て、チーム一丸で答えを探し出すことにあります。
皆さんで決めた本人の努力、周囲のサポート、環境の工夫を全員でわかるように書き出しておく(本人と指揮命令者はPCやノートの見える場所に書いておくなど)と良いですね。
Aさんが環境に慣れ、できることが増えていくと、本人の努力の範囲が変わることで、他の視点も変化するかもしれません。その時はまた少し時間をとって活躍のアイデア会議をしてみてください。
僕の支援先では、この会議が上手になっています。最初は上記の通りの工程をぎこちなくやっていましたが、今では5分程度の立ち話の中で実施できるようになっています。それを見ていて日本代表のサッカーチームみたいだなぁと感じます。ピッチにいる数名の選手が数秒集まって情報伝達や確認や意見のすり合わせをして、さっと離れる場面がありますよね。コミュニケーションがうまくいく組織のイメージはこんな感じです。
残念ながら最初からこんな風にはいきません(汗)それでも基本的な考え方を共有した上で繰り返し実行していると、時短もできますし、意思疎通も速くなります。
ではおさらいです。
・配慮は密談で誰かが勝手に決めない、必要なメンバーが集まって決める
・本人の努力、周囲のサポート、環境の工夫のバランスの良いあり方を模索する
・絶対の正解はない、現場の総意で決まったことが正解
・本人の努力、周囲のサポート、環境の工夫のバランスは時間が経てば変わって良い
・活躍のアイデア会議を使いこなす雇用現場を目指す
今回は以上です。
これまでに受け入れ準備パターンの4つの説明が終了しました。ところで、皆さんが一番聞きたいことが書かれていないですよね。多くの企業を支援していると必ず聞かれるのが「業務の切り出し」と「求人票の書き方」ですから。もちろんそれもこうしたほうが良いというのはありますが、パターン・ランゲージを16個にまとめ上げる過程で、それらはさほど重要じゃないと考えあえて排除しています。
障がい者を雇用しても定着しない、障がい者雇用を何から始めて良いか分からないというのであれば、受け入れ準備パターンの4つをぜひ実施してみてください。
次回からは一緒にはたらくパターン9つの解説をします。スムーズに関係性を築き、現場の多様性を伸ばし、さらに本人の能力を導き出すためのポイントとは何かをお伝えしていきます。